介護の仕事を始めたばかりの人にとって、移乗介助は特に怖いと感じやすい業務のひとつです。
ベッドから車椅子へ移るとき、トイレへ立ち上がるとき、椅子から立ってもらうときなど、少しの動きでも「転倒させたらどうしよう」「自分が支えきれなかったらどうしよう」と不安になることがあります。
移乗介助は、利用者さんの体を支える場面が多く、介護職自身の腰や腕にも負担がかかります。そのため、新人介護職が怖いと感じるのは決して珍しいことではありません。
大切なのは、怖さを無理に消そうとすることではなく、何が怖いのかを整理し、安全に介助するための確認ポイントを知ることです。
この記事でわかること
・移乗介助が怖いと感じる主な理由
・新人介護職がつまずきやすい移乗介助の場面
・怖さを減らすために確認したい利用者さんの状態
・無理な移乗介助を避けるための声かけと準備
・先輩や看護師に相談すべきタイミング
・移乗介助に不安がある人が職場で確認したいこと
移乗介助が怖いと感じるのは自然なこと
転倒させてしまう不安が大きい
移乗介助が怖いと感じる一番の理由は、利用者さんを転倒させてしまう不安です。
介護現場では、ベッドから車椅子、車椅子からトイレ、椅子から立位など、さまざまな移乗場面があります。どの場面でも利用者さんの体が不安定になる時間があり、新人のうちは「このまま倒れたらどうしよう」と緊張しやすくなります。
特に、足の力が弱い人、立ち上がりにふらつきがある人、片麻痺がある人、認知症で急に動いてしまう人の介助では、怖さを感じやすいです。
ただし、怖いと感じること自体は悪いことではありません。むしろ、転倒リスクを意識できている証拠でもあります。
問題なのは、怖いまま自己判断で介助してしまうことです。不安があるときは、利用者さんの状態、介助方法、福祉用具の使い方を必ず確認しながら進めることが大切です。
自分の腰を痛めそうで怖い
移乗介助では、利用者さんの体重を支える場面があります。そのため、新人介護職の中には「腰を痛めそう」「体力に自信がない」と不安になる人もいます。
実際、無理な姿勢で抱え上げたり、利用者さんの動きに合わせず力任せに支えたりすると、介護職自身の腰や肩に大きな負担がかかります。
介護は力仕事のイメージがありますが、安全な移乗介助は力だけで行うものではありません。利用者さんの残っている力を活かし、体の向きや足の位置、車椅子の角度、声かけのタイミングを整えることが重要です。
覚えておきたいこと
移乗介助は「持ち上げる介助」ではなく、利用者さんが動きやすいように支える介助です。
力で何とかしようとすると、利用者さんにも介護職にも負担が大きくなります。
腰に不安がある場合は、ボディメカニクスや福祉用具の使い方を先輩に確認しましょう。スライディングボード、移乗用ベルト、リフトなどを使う職場もあります。
手順が多くて頭が追いつかない
移乗介助は、ただ支えるだけの業務ではありません。
実際には、移乗前に確認することが多くあります。
・車椅子のブレーキはかかっているか
・フットレストは上がっているか
・ベッドの高さは合っているか
・利用者さんの足の位置は安定しているか
・立ち上がる方向は合っているか
・麻痺側や痛みのある側に配慮できているか
・声かけのタイミングは合っているか
新人のうちは、これらを一度に考えようとして混乱しやすいです。
特に先輩が素早く介助しているのを見ると、「自分も早くやらないと」と焦ってしまうことがあります。しかし、慣れていない時期にスピードを優先すると、確認漏れが起こりやすくなります。
最初はゆっくりで構いません。安全確認をしながら、ひとつずつ手順を覚えることが大切です。
利用者さんの反応が読めず怖くなる
移乗介助では、利用者さんの協力が必要になる場面があります。
しかし、利用者さんによっては、声かけが伝わりにくいことがあります。認知症がある人の場合、急に立ち上がろうとしたり、逆に動くことを嫌がったりすることもあります。
また、痛みがある人は、介助中に表情がこわばることがあります。新人介護職は、その反応を見ると「自分の介助が悪かったのでは」と不安になりやすいです。
利用者さんの反応には、体調、痛み、眠気、不安、認知機能、過去の転倒経験など、さまざまな要因が関係しています。
自分だけで判断せず、いつもと違う様子があれば、先輩職員や看護師に確認しましょう。痛みや体調変化が疑われる場合は、無理に移乗を進めない判断も必要です。
新人介護職が移乗介助でつまずきやすい場面
ベッドから車椅子への移乗
ベッドから車椅子への移乗は、多くの介護現場でよく行う介助です。頻度が高い一方で、新人が怖いと感じやすい場面でもあります。
ベッド上では安定して見えていた利用者さんでも、端座位になった瞬間にふらつくことがあります。立ち上がったあとに膝折れが起きたり、方向転換の途中でバランスを崩したりすることもあります。
そのため、移乗前には利用者さんが座った状態で安定しているかを確認することが大切です。端座位でふらつきが強い場合は、すぐに立ち上がりへ進まず、先輩に確認しましょう。
車椅子の位置も重要です。距離が遠すぎると、利用者さんが余計に歩く必要があります。逆に近すぎたり角度が悪かったりすると、足の動きが妨げられることがあります。
移乗前の確認ポイント
・車椅子のブレーキがかかっている
・フットレストが上がっている
・ベッドの高さが合っている
・利用者さんの足底が床についている
・立ち上がる方向と座る位置を伝えている
・不安がある場合は一人で行わない
この確認を習慣にすると、移乗介助への怖さは少しずつ減っていきます。
車椅子からトイレへの移乗
トイレへの移乗は、ベッドから車椅子への移乗よりも緊張しやすい場合があります。
理由は、空間が狭く、衣類の上げ下げや排泄動作が関わるためです。利用者さんの尊厳にも関わる場面なので、新人介護職は「失礼にならないようにしなければ」と気を使います。
トイレでは、手すりの位置、便座の高さ、足の位置、ズボンやリハビリパンツの扱いなど、確認することが多くなります。さらに、利用者さんが焦って座ろうとしたり、立位が不安定なまま衣類を下げようとしたりすることもあります。
この場面で大切なのは、移乗と排泄介助を同時に急いで進めないことです。
まずは立位が安定しているかを確認し、必要に応じて手すりを持ってもらいます。衣類操作に不安がある場合は、無理に一人で対応せず、先輩に同行してもらいましょう。
羞恥心への配慮も必要です。ドアやカーテンを閉める、声の大きさに注意する、必要以上に体を見ないようにするなど、基本的な配慮を忘れないことが大切です。
椅子やソファからの立ち上がり
椅子やソファからの立ち上がりは、一見簡単そうに見えるため注意が必要です。
ベッドや車椅子と違い、椅子の高さや座面の柔らかさはさまざまです。低いソファに深く座っていると、利用者さんが立ち上がるまでに大きな力が必要になることがあります。
新人介護職は、利用者さんが立ち上がれないときに、つい腕を引っ張ってしまいがちです。しかし、腕を強く引くと、肩や皮膚を痛める恐れがあります。また、利用者さんが前方へ倒れそうになることもあります。
立ち上がりでは、足を少し手前に引いてもらい、体を前に倒す動きを促すことが基本です。ただし、利用者さんの身体状況によって適切な方法は変わります。
注意
腕を引っ張る介助は、利用者さんの痛みやけがにつながることがあります。
立ち上がりが難しい場合は、姿勢、足の位置、手すりの使用、介助人数を確認しましょう。
介助方法に迷う場合は、リハビリ職や看護師、経験のある介護職に確認することが大切です。
片麻痺や膝折れがある利用者さんの移乗
片麻痺がある人、膝折れが起こりやすい人、下肢の力が弱い人の移乗介助は、新人にとって特に怖い場面です。
どちら側に立てばよいのか、どちら側へ移乗するのが安全なのか、足の位置をどう整えればよいのかなど、判断に迷うことが多いからです。
このような利用者さんの場合、介助方法が個別に決められていることがあります。申し送り、介護記録、個別援助計画、リハビリ職の指示などを確認する必要があります。
「前の職場ではこうしていた」「他の利用者さんではこうだった」という感覚で介助すると危険です。利用者さんごとに身体状況は違います。
特に、急に膝が折れる人や、立位保持が難しい人の場合は、新人が一人で移乗介助を行う前に必ず確認することが大切です。
怖さを減らすために移乗前に見るべきこと
利用者さんの今日の状態を見る
移乗介助は、毎日同じようにできるとは限りません。
昨日は安定して立てた利用者さんでも、今日は眠気が強かったり、食事量が少なかったり、発熱や痛みがあったりすると、ふらつきやすくなることがあります。
そのため、移乗前には「いつもの状態かどうか」を見ることが大切です。
確認したいのは、たとえば次のような点です。
| 見るポイント | 気をつけたいサイン |
|---|---|
| 表情 | ぼんやりしている、顔色が悪い、痛そうにしている |
| 姿勢 | 体が傾く、座位が保てない、足が床につかない |
| 反応 | 声かけへの返事がいつもより弱い、理解が難しい |
| 足の動き | 踏ん張れない、膝が崩れる、足が前に出ない |
| 体調 | めまい、息切れ、強い眠気、発熱、痛みの訴え |
いつもと違う様子がある場合は、無理に移乗を進めないことも大切です。
新人のうちは「ここで止めていいのかな」と迷うかもしれません。しかし、異変に気づいて確認することは、安全な介護の一部です。自己判断せず、近くの先輩や看護師に相談しましょう。
介助方法が決まっているか確認する
移乗介助が怖いと感じるときは、まずその利用者さんの介助方法が決まっているかを確認しましょう。
介護施設では、利用者さんごとに介助方法が共有されていることがあります。
・一人介助か二人介助か
・立位移乗か、スライディングボードを使うか
・どちら側から介助するか
・手すりを使うか
・声かけの内容に決まりがあるか
・移乗時に注意する痛みや麻痺があるか
これらを知らないまま介助すると、不安が大きくなるだけでなく、事故につながる恐れもあります。
確認してから動く習慣
「この方の移乗は一人介助で大丈夫ですか?」
「膝折れがあると聞いたのですが、立ち位置はどこが安全ですか?」
「トイレ移乗のとき、注意することはありますか?」
このように聞くことは、恥ずかしいことではありません。新人のうちは、確認しながら覚えていく時期です。
車椅子やベッド周りの環境を整える
移乗介助では、利用者さんの状態だけでなく、周りの環境も重要です。
ベッドの高さが合っていない、車椅子のブレーキが甘い、床に物が落ちている、フットレストが下がったままになっているなど、環境の乱れが転倒リスクにつながることがあります。
新人介護職は、利用者さんの体を支えることに意識が向きやすく、周囲の確認が抜けてしまうことがあります。しかし、移乗前の準備が整っていれば、介助中に慌てる場面を減らせます。
特に車椅子は、ブレーキとフットレストの確認が大切です。ブレーキがかかっていないと、利用者さんが座ろうとした瞬間に車椅子が動いてしまうことがあります。
ベッドの高さも確認しましょう。高すぎると足が床につきにくく、低すぎると立ち上がりにくくなります。利用者さんが足底をしっかり床につけられる高さに調整することが基本です。
声かけで動くタイミングを合わせる
移乗介助では、介護職だけが動くのではなく、利用者さんとタイミングを合わせることが大切です。
声かけがないまま急に体を支えると、利用者さんは驚いたり、体に力が入ったりします。反対に、利用者さんが動く前に介護職が引っ張ってしまうと、動きが合わず不安定になります。
声かけは、短く、わかりやすく、具体的に伝えることが基本です。
たとえば、次のような声かけがあります。
・「今から車椅子へ移りますね」
・「足を少し手前に引きましょう」
・「手すりを持ってください」
・「私が支えますので、ゆっくり立ちます」
・「せーので立ちましょう」
・「座る場所を確認してから、ゆっくり座りますね」
認知症のある利用者さんには、一度に多くのことを伝えると混乱する場合があります。その場合は、ひとつずつ短く伝えるとよいでしょう。
声かけのポイント
移乗介助では「何をするか」「いつ動くか」「どこへ移るか」を伝えると、利用者さんも安心しやすくなります。
声かけは安全確認であり、尊厳への配慮でもあります。
新人が無理をしないための移乗介助のコツ
「一人でやらなきゃ」と思い込まない
新人介護職が移乗介助で怖さを強めてしまう理由のひとつに、「一人でできないといけない」と思い込んでしまうことがあります。
しかし、すべての移乗介助を一人で行う必要はありません。利用者さんの身体状況によっては、二人介助が必要な場合もあります。福祉用具を使ったほうが安全な場合もあります。
先輩が一人で介助しているからといって、自分も同じようにできるとは限りません。経験、体格、利用者さんとの関係性、動きの予測力などが違うからです。
大切なのは、できないことを隠すことではありません。危ないかもしれないと感じた時点で助けを呼ぶことです。
無理をしない判断
・利用者さんの足に力が入りにくい
・立ち上がった瞬間に膝が崩れそう
・声かけが伝わりにくい
・体格差が大きく支えきれる自信がない
・いつもより反応が鈍い
・前回の介助で怖い場面があった
このような場合は、一人で抱え込まず、先輩に相談しましょう。
体の近くで支える意識を持つ
移乗介助では、利用者さんから離れた位置で支えようとすると、介護職にも利用者さんにも負担がかかります。
体が離れていると、利用者さんがふらついたときに支えにくくなります。また、介護職の腕や腰だけに力が入りやすくなります。
基本的には、利用者さんの動きに合わせて近い位置で支え、無理に引っ張らないことが大切です。ただし、どこを支えるか、どの位置に立つかは、利用者さんの状態によって変わります。
たとえば、麻痺がある人、痛みがある人、皮膚が弱い人、骨折歴がある人などは、支え方に注意が必要です。
新人のうちは、「どこを持てばよいか」ではなく、「どこを持ってはいけないか」も確認しましょう。腕を強く引く、脇を無理に抱える、衣類だけを引っ張るなどは、けがや不快感につながることがあります。
利用者さんの力を活かす
移乗介助で怖いと感じると、介護職がすべて支えようとしてしまうことがあります。
しかし、利用者さんに残っている力を使ってもらうことは、安全面でも自立支援の面でも大切です。
たとえば、立ち上がるときに手すりを持ってもらう、足底を床につけてもらう、体を前に倒してもらう、声かけに合わせて動いてもらうなどです。
介護職がすべて抱え上げると、利用者さんは自分の力を使う機会が減ります。また、介護職の腰への負担も大きくなります。
もちろん、利用者さんの状態によっては、力を入れることが難しい場合もあります。その場合は、無理に頑張らせるのではなく、介助方法や福祉用具の使用を検討する必要があります。
大切な視点
移乗介助は「介護職が全部やる」ものではありません。
利用者さんができる動きを活かし、できない部分を安全に支えることが基本です。
焦ってスピードを上げない
介護現場は忙しいため、移乗介助も急ぎたくなる場面があります。
ナースコールが鳴っている、食事の時間が迫っている、他の利用者さんも待っている。このような状況では、新人介護職ほど焦りやすくなります。
しかし、移乗介助は焦るほど確認漏れが起きやすい業務です。車椅子のブレーキ確認を忘れる、フットレストを上げ忘れる、声かけが不十分になる、利用者さんの足の位置を見落とすなど、事故につながる可能性があります。
忙しいときこそ、最低限の確認を省かないことが大切です。
| 焦りやすい場面 | 省かないほうがよい確認 |
|---|---|
| 食事前の移動 | 車椅子のブレーキ、座位の安定 |
| トイレ誘導 | 立位の安定、手すりの使用、衣類操作 |
| 入浴前後 | 足元の滑り、ふらつき、体調変化 |
| 就寝介助 | ベッド位置、端座位の安定、眠気 |
| ナースコール対応中 | 一人で無理しない、応援を呼ぶ |
早く終わらせることよりも、事故なく終えることのほうが大切です。
怖いまま続けないために相談すべきタイミング
介助中にヒヤッとした経験があるとき
移乗介助で一度ヒヤッとする経験をすると、次から怖くなることがあります。
たとえば、利用者さんが急に膝折れした、車椅子に座り損ねそうになった、トイレで体が傾いた、立ち上がりの途中で手を離しそうになったなどです。
このような経験をしたときは、「自分のミスだった」と一人で抱え込まないことが大切です。
もちろん、振り返りは必要です。しかし、移乗介助の怖さは、個人の注意力だけで解決できるものではありません。利用者さんの状態変化、環境、介助方法、福祉用具、職員配置など、複数の要因が関係します。
ヒヤッとした場面があったら、できるだけ早く先輩に共有しましょう。
・どの場面で起きたか
・利用者さんの様子はどうだったか
・自分はどこに立っていたか
・車椅子やベッドの位置はどうだったか
・次回はどう介助すればよいか
このように確認すると、次の介助が少し安全になります。
利用者さんの状態が変わったと感じるとき
移乗介助では、利用者さんの状態変化に気づくことも大切です。
「昨日より足が出にくい」「立ち上がりが弱い」「ふらつきが強い」「表情がぼんやりしている」「痛みを訴える」など、いつもと違う様子がある場合は注意が必要です。
新人介護職は、「自分の介助が下手だからうまく移れないのかも」と考えてしまうことがあります。しかし、利用者さんの体調が変わっている可能性もあります。
特に、急なふらつき、強い痛み、意識がぼんやりしている、息切れが強い、顔色が悪いなどがある場合は、看護師や上司に報告しましょう。
報告したい変化
・立ち上がり時に急に力が入らない
・膝折れやふらつきが増えた
・痛みの訴えがある
・いつもより反応が鈍い
・移乗後に息切れや疲労感が強い
・座位保持が難しくなっている
医療的な判断が関わる場合は、介護職だけで判断しないことが大切です。
介助方法が人によって違うとき
職場によっては、同じ利用者さんの移乗介助でも、職員によってやり方が違うことがあります。
新人介護職にとって、これは大きな不安になります。
ある先輩には「こっち側から介助して」と言われたのに、別の先輩には「反対側のほうがいい」と言われる。ある人は一人介助で行っているのに、別の人は二人介助で行っている。このような状況では、何が正しいのかわからなくなります。
介助方法が人によって違うと感じたら、自己判断で合わせるのではなく、リーダーや上司に確認しましょう。
確認するときの言い方
「〇〇さんの移乗介助について、職員によって方法が違っているように感じます。新人なので、安全な方法を統一して確認したいです。」
「一人介助でよいのか、二人介助が必要なのか確認してもよいですか?」
「記録や申し送りで、移乗方法を確認できる場所はありますか?」
介助方法の統一は、新人のためだけでなく、利用者さんの安全にもつながります。
怖さで体が固まってしまうとき
移乗介助が怖すぎて、介助中に体が固まってしまうこともあります。
この状態で無理に続けると、利用者さんの動きに対応できなかったり、介護職自身がパニックになったりする可能性があります。
怖さが強い場合は、段階的に練習することが必要です。
いきなり難しい利用者さんの移乗を一人で行うのではなく、まずは先輩の介助を見る、次に声かけだけ担当する、次に見守りのもとで一部を行う、というように段階を踏むと不安を減らしやすくなります。
新人の練習ステップ
□ 先輩の移乗介助を見学する
□ 介助前の環境準備を担当する
□ 声かけの流れを覚える
□ 先輩と一緒に二人介助を行う
□ 比較的安定している利用者さんから担当する
□ 不安な場面は振り返りをしてから再挑戦する
「怖いから向いていない」とすぐに決める必要はありません。ただし、怖さを我慢して危険な介助を続ける必要もありません。
移乗介助が不安な新人が職場で確認したいこと
教育体制と同行期間があるか
移乗介助に不安がある新人介護職は、職場の教育体制を確認することが大切です。
未経験歓迎や新人歓迎の求人でも、実際の教育体制は職場によって大きく違います。最初から丁寧に同行してくれる職場もあれば、人手不足で早い段階から一人で動くことを求められる職場もあります。
移乗介助は、利用者さんの安全に関わる業務です。そのため、見よう見まねだけで覚えるよりも、利用者さんごとの注意点を教えてもらいながら練習できる職場のほうが安心です。
面接や見学では、次のような質問をしてみましょう。
面接・見学で聞きたい質問
「新人が移乗介助を覚えるとき、最初は同行してもらえますか?」
「一人介助を始めるまでに、確認や見極めはありますか?」
「移乗方法は利用者さんごとに共有されていますか?」
「腰痛予防やボディメカニクスの指導はありますか?」
「不安な介助は二人で対応できますか?」
このような質問に具体的に答えてくれる職場は、新人にとって安心しやすい環境といえます。
二人介助や福祉用具を使える雰囲気か
移乗介助が怖い人にとって、二人介助や福祉用具を使えるかどうかは重要なポイントです。
職場によっては、スライディングボード、移乗用ベルト、リフトなどを活用している場合があります。一方で、福祉用具があっても使う習慣がなかったり、「忙しいから一人でやって」と言われやすかったりする職場もあります。
もちろん、すべての移乗に福祉用具が必要なわけではありません。しかし、必要な場面で使える環境があるかどうかは、安全面に大きく関わります。
二人介助が必要な利用者さんに対して、常に一人で対応しなければならない職場では、新人だけでなく経験者でも負担が大きくなります。
確認ポイント
・二人介助が必要な利用者さんは明確になっているか
・福祉用具の使い方を教えてもらえるか
・「不安なので一緒にお願いします」と言いやすいか
・忙しい時間帯でも応援を呼べる体制があるか
・腰痛予防への意識があるか
「怖い」と言える雰囲気がある職場は、新人が成長しやすい職場でもあります。
介助方法の共有がされているか
移乗介助では、利用者さんごとの情報共有がとても重要です。
たとえば、同じ「車椅子移乗」でも、利用者さんによって注意点は違います。
| 利用者さんの状態 | 共有しておきたい内容 |
|---|---|
| 片麻痺がある | 介助する側、足の位置、手すりの使い方 |
| 膝折れがある | 立位保持の時間、二人介助の必要性 |
| 認知症がある | 伝わりやすい声かけ、急な動きへの注意 |
| 痛みがある | 触れてはいけない部位、動かし方の注意 |
| 体格差が大きい | 福祉用具の使用、応援を呼ぶ基準 |
こうした情報が共有されていないと、新人は毎回不安を抱えながら介助することになります。
申し送りノート、介護記録、個別ファイル、口頭共有など、職場によって方法は違います。大切なのは、新人でも必要な情報にアクセスできることです。
情報が見当たらない場合は、「どこを見れば移乗方法が確認できますか」と聞きましょう。聞くことで、自分の不安を減らすだけでなく、事故予防にもつながります。
怖い介助を相談できる人がいるか
移乗介助が怖いと感じる新人にとって、相談できる人の存在は大きいです。
先輩職員、リーダー、主任、看護師、リハビリ職など、職場にはさまざまな立場の人がいます。誰に何を相談すればよいかを知っておくと、不安を抱え込みにくくなります。
たとえば、介助手順や立ち位置は先輩介護職に、体調変化や痛みは看護師に、動作や福祉用具についてはリハビリ職に相談できる場合があります。
もちろん職場によって配置されている専門職は違います。だからこそ、自分の職場では誰に確認するのがよいかを早めに知っておくことが大切です。
相談先の目安
・介助手順がわからない:先輩介護職、リーダー
・一人介助か二人介助か迷う:リーダー、主任
・痛みや体調変化がある:看護師、上司
・立ち上がりや歩行状態が気になる:リハビリ職、看護師
・職員によって方法が違う:リーダー、主任、管理者
新人のうちは、確認が多くても問題ありません。むしろ、確認せずに不安な介助をするほうが危険です。
移乗介助の怖さは「慣れ」だけで解決しようとしない
慣れる部分と、確認し続ける部分がある
移乗介助は、経験を重ねることで少しずつ慣れていく部分があります。
車椅子の準備、声かけの流れ、足の位置の確認、立ち上がるタイミングなどは、繰り返すことで身につきやすくなります。
しかし、すべてを「慣れ」で解決しようとするのは危険です。
利用者さんの体調は日によって変わります。昨日できた介助が今日も同じようにできるとは限りません。体力低下、痛み、眠気、認知症の症状、薬の影響などによって、移乗の安定感が変わることもあります。
そのため、経験を積んでも確認は必要です。ベテランでも、危険を感じたら二人介助にしたり、看護師に相談したりします。
慣れることと、油断することは違います。
新人のうちは、怖さを減らしながらも、確認する習慣を残しておくことが大切です。
怖いと感じる自分を責めすぎない
移乗介助が怖いと、「自分は介護職に向いていないのでは」と落ち込む人もいます。
しかし、新人の時期に怖いと感じるのは自然なことです。利用者さんの体を支える責任の重さを感じているからこそ、不安になるのです。
むしろ、何も怖くないまま自己流で介助してしまうほうが危険な場合もあります。
大切なのは、怖さをそのままにせず、少しずつ具体的な対策に変えていくことです。
・何が怖いのかを言葉にする
・不安な利用者さんを先輩に伝える
・移乗前の確認項目を決める
・介助後に振り返る
・一人で難しいときは応援を呼ぶ
このように行動に変えることで、怖さは少しずつ扱いやすくなります。
どうしても不安が強い職場なら働き方を見直す
移乗介助への不安は、本人の経験不足だけでなく、職場環境によって強くなることもあります。
たとえば、教育がほとんどない、質問しにくい、二人介助が必要な場面でも一人で対応させられる、利用者さんの情報共有が少ない、忙しすぎて確認する時間がない職場では、新人の不安は大きくなります。
このような環境で無理を続けると、介護職自身が疲弊してしまうことがあります。腰痛や精神的な負担が強くなり、仕事を続けること自体がつらくなる場合もあります。
もちろん、すぐに辞めるかどうかを決める必要はありません。まずは上司に相談し、同行を増やしてもらう、介助方法を確認してもらう、担当する利用者さんを調整してもらうなど、できる対策を考えましょう。
それでも改善されず、危険な介助を一人で任され続ける場合は、職場を見直すことも選択肢です。
職場を見直す前に確認したいこと
□ 移乗介助の不安を上司に相談した
□ 同行や再指導をお願いした
□ 二人介助が必要な場面を共有した
□ 介助方法の統一を相談した
□ 腰痛や体調不良が出ていないか確認した
□ それでも危険な介助が続いていないか見直した
合わない職場で無理を続けることだけが正解ではありません。介護職は職場によって働きやすさが大きく変わります。
小さな成功体験を積むことが自信につながる
移乗介助への怖さを減らすには、いきなり完璧を目指さないことも大切です。
新人のうちは、ひとつずつできることを増やしていきましょう。
たとえば、最初は車椅子の準備を確実にする。次に声かけを覚える。次に先輩と一緒に移乗する。比較的安定している利用者さんの介助から経験する。このように段階を踏むことで、自信がつきやすくなります。
介助後には、「できなかったこと」だけでなく、「できたこと」も振り返りましょう。
・ブレーキ確認ができた
・声かけを落ち着いてできた
・不安な場面で先輩を呼べた
・利用者さんの表情を見ながら介助できた
・無理せず二人介助に切り替えられた
これらも大切な成長です。
この記事のまとめ
・移乗介助が怖いと感じるのは新人介護職にとって自然なこと
・怖さの背景には、転倒リスク、腰への負担、手順の多さ、利用者さんの状態変化がある
・移乗前には、利用者さんの体調、介助方法、車椅子やベッド周りの環境を確認する
・一人で無理をせず、二人介助や福祉用具、先輩の同行を活用することが大切
・ヒヤッとした場面や状態変化があるときは、自己判断せず上司や看護師に相談する
・怖さを責めるのではなく、安全に介助するための確認習慣に変えていくことが大切
移乗介助は、新人介護職にとって緊張しやすい業務です。最初から怖さがまったくない人のほうが少ないかもしれません。
大切なのは、怖いと感じる自分を責めることではなく、なぜ怖いのかを整理し、安全に行うための方法を確認することです。
利用者さんの尊厳と安全を守るためにも、介護職自身の体を守るためにも、無理な介助は避けましょう。分からないことは確認し、不安な場面では助けを求めながら、少しずつ経験を積んでいけば大丈夫です。


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