認知症の利用者さんと関わる中で、同じ話を何度も繰り返す場面に戸惑う介護職は少なくありません。
最初は丁寧に聞けていても、忙しい時間帯に何度も同じ質問をされたり、同じ訴えが続いたりすると、つい疲れてしまうことがあります。
「さっきも聞いたのに」
「また同じ話だ」
「どう返せばいいかわからない」
そう感じてしまう自分を責めている人もいるかもしれません。
しかし、認知症の利用者さんが同じ話を繰り返すのは、単なるわがままや困らせようとしている行動ではないことが多いです。背景には、記憶の障害、不安、確認したい気持ち、生活環境への戸惑いなどが関係している場合があります。
この記事では、認知症の利用者さんが同じ話を繰り返す理由や、介護職が疲れすぎないための対応、声かけの工夫をわかりやすく解説します。
この記事でわかること
・認知症の利用者さんが同じ話を繰り返す主な理由
・介護職が対応に疲れやすい場面
・同じ質問や訴えへの声かけの考え方
・否定せず関わるための具体的な対応例
・一人で抱え込まないための職場での共有方法
・無理なく対応を続けるための心の守り方
認知症の利用者さんが同じ話を繰り返すのはなぜか
「言ったことを忘れている」だけではない
認知症の利用者さんが同じ話を繰り返すとき、まず思い浮かびやすいのは「さっき話したことを忘れているから」という理由です。
たしかに、認知症では新しい出来事を覚えにくくなることがあります。そのため、本人にとっては初めて話しているつもりでも、周囲から見ると同じ話を何度もしているように見えることがあります。
ただし、理由はそれだけではありません。
同じ話の中に、本人の不安や寂しさ、確認したい気持ちが隠れていることもあります。
たとえば、何度も「今日は何日?」と聞く場合、単に日付を忘れているだけではなく、予定がわからず不安になっている可能性があります。
また、「家に帰らないと」「迎えはまだ?」と繰り返す場合も、場所や時間の感覚があいまいになり、安心できる場所を求めていることがあります。
大切な視点
同じ話を繰り返す行動だけを見るのではなく、
「何を確認したいのか」
「どんな気持ちが続いているのか」
を考えると、対応の方向が見えやすくなります。
不安を落ち着かせるために確認していることがある
認知症の利用者さんは、今いる場所や時間、予定、人間関係を正確に把握しにくくなることがあります。
そのため、同じことを繰り返し聞くことで、自分の中の不安を少しでも落ち着かせようとしている場合があります。
たとえば、以下のような質問です。
・「ご飯はまだ?」
・「お風呂はいつ?」
・「家族は来る?」
・「ここはどこ?」
・「帰っていい?」
・「私は何をすればいいの?」
これらは、職員からすると何度も答えている質問かもしれません。
しかし、利用者さん本人にとっては、答えを聞いた記憶が残りにくかったり、聞いた直後は安心しても、しばらくするとまた不安が戻ってきたりします。
つまり、同じ話を繰り返す背景には、**「わからない状態が続いている不安」**がある場合があります。
そのため、「さっき言いましたよ」と正論で返しても、本人の安心にはつながりにくいことがあります。
過去の記憶が今の感覚として出てくることもある
認知症の利用者さんの中には、昔の出来事を現在のことのように話す人もいます。
たとえば、すでに退職しているのに「仕事に行かないと」と話したり、子どもが大人になっているのに「子どもを迎えに行かないと」と繰り返したりすることがあります。
これは、本人の中で過去の記憶が強く残っていて、今の状況との区別がつきにくくなっている可能性があります。
このときに、「もう仕事は辞めていますよ」「お子さんは大人ですよ」と事実だけを伝えると、本人が混乱したり、恥ずかしさや怒りを感じたりすることがあります。
もちろん、すべての場面で話を合わせればよいわけではありません。事故につながる行動や強い不安がある場合は、職場の上司や看護師、専門職と相談しながら対応を考える必要があります。
ただ、日常の声かけでは、事実を訂正する前に、まず本人の気持ちを受け止めることが大切です。
同じ話への対応で介護職が疲れやすい場面
忙しい時間帯ほど余裕がなくなる
認知症の利用者さんが同じ話を繰り返す場面は、介護職にとって精神的に疲れやすい場面の一つです。
特に、食事前、入浴介助前、排泄介助が重なる時間、申し送り前後などは、職員側にも余裕がありません。
そのようなときに何度も同じ質問をされると、頭では「認知症の症状だから」とわかっていても、気持ちが追いつかないことがあります。
これは、介護職の性格が悪いからではありません。
現場では、同時に複数の利用者さんを見守りながら、記録、誘導、介助、ナースコール対応などを行うことがあります。時間に追われる中で同じ話が続けば、疲れを感じるのは自然なことです。
大切なのは、疲れを感じた自分を責めすぎないことです。
疲れを感じていることに気づければ、対応を一人で抱え込まず、周囲に相談するきっかけになります。
正しく答えようとしすぎると消耗しやすい
同じ質問に対して、毎回きちんと説明しようとすると、介護職側が疲れやすくなります。
たとえば、「今日は何曜日?」「今何時?」「ご飯はまだ?」と何度も聞かれるたびに、詳しく説明しようとすると、対応に時間も気力も使います。
もちろん、利用者さんを雑に扱ってよいという意味ではありません。
ただ、毎回長く説明すれば安心するとは限りません。認知症の状態によっては、詳しい説明よりも、短くわかりやすい声かけの方が伝わりやすいことがあります。
| よくある対応 | 疲れやすくなる理由 | 工夫したい対応 |
|---|---|---|
| 毎回長く説明する | 職員側の負担が大きい | 短く同じ言葉で返す |
| 間違いを訂正し続ける | 利用者さんが不安や反発を感じやすい | 気持ちを受け止めてから返す |
| その場で一人で解決しようとする | 対応が属人化しやすい | チームで声かけを統一する |
| 忙しくても全部対応しようとする | イライラや疲労がたまりやすい | 役割分担や見守りを相談する |
同じ話への対応は、正解を一回で出すものではありません。
利用者さんの状態や時間帯、環境によって反応が変わるため、職場全体で試しながら整えていくものと考えると、少し負担を減らしやすくなります。
「また同じ話」と感じる自分を責めすぎない
介護職として働いていると、「利用者さんに優しくしなければいけない」「認知症の症状を理解しなければいけない」と思う場面があります。
そのため、同じ話に疲れたり、内心イライラしてしまったりすると、「自分は介護職に向いていないのでは」と感じる人もいます。
しかし、同じ話を何十回も聞くことは、誰にとっても簡単なことではありません。
特に新人介護職や未経験から始めた人は、対応の引き出しがまだ少ないため、余計に疲れやすいです。
大切なのは、感情をなくすことではありません。
疲れたときに、次のように考え直せることが大切です。
・自分だけで抱え込んでいないか
・同じ対応を続けて余計に疲れていないか
・他の職員はどう声をかけているか
・利用者さんは何に不安を感じているのか
・記録や申し送りで共有できているか
介護職が疲れない対応を考えるためには、利用者さんへの理解だけでなく、職員自身の負担にも目を向ける必要があります。
同じ話を繰り返す利用者さんへの基本の関わり方
まずは否定せず、気持ちを受け止める
認知症の利用者さんが同じ話を繰り返すとき、最初に意識したいのは否定しないことです。
「さっきも言いました」
「何回も聞いていますよ」
「違いますよ」
「そんなことありません」
このような言葉は、事実としては間違っていない場合もあります。
しかし、利用者さんにとっては、自分の不安や訴えを否定されたように感じることがあります。その結果、さらに不安が強くなったり、怒りや混乱につながったりすることもあります。
まずは、話の内容そのものよりも、気持ちに返事をするイメージを持つと対応しやすくなります。
たとえば、「家に帰らないと」と繰り返す人には、すぐに「帰れません」と言うのではなく、
「お家のことが気になるんですね」
「帰りたくなるくらい心配なんですね」
「大事なことを思い出されたんですね」
といった声かけが考えられます。
声かけの基本
事実を正す前に、
まず本人が感じている不安や心配に返事をする。
その方が、落ち着いて次の関わりにつなげやすくなります。
短く、わかりやすく、同じ言葉で返す
同じ質問を繰り返す利用者さんには、長い説明よりも短い声かけの方が伝わりやすいことがあります。
たとえば、「ご飯はまだ?」と何度も聞かれる場合、毎回詳しく説明するよりも、
「あと少しでご飯です」
「今、準備しています」
「こちらで待っていましょう」
といった短い言葉で返す方が、本人も受け取りやすい場合があります。
大切なのは、職員によって返答がバラバラになりすぎないことです。
ある職員は「もうすぐです」と言い、別の職員は「まだです」と言い、さらに別の職員は「座っていてください」とだけ言うと、利用者さんが混乱することがあります。
もちろん、すべての言葉を完全に統一する必要はありません。
ただ、よくある質問や訴えに対して、職場内で「この方にはこう伝えると落ち着きやすい」という共有があると、対応しやすくなります。
話をそらすのではなく、安心できる方向へつなげる
同じ話を繰り返す利用者さんへの対応では、「気をそらす」という考え方が使われることがあります。
ただし、無理に話題を変えようとすると、本人が「聞いてもらえなかった」と感じることがあります。
そのため、まずは一度受け止めてから、安心できる行動や環境へつなげることが大切です。
たとえば、
・窓の外を見る
・お茶を飲む
・一緒に席へ移動する
・カレンダーを見る
・写真やなじみの物を見る
・手作業や簡単な役割につなげる
などが考えられます。
「それよりこっちをしましょう」ではなく、
「心配ですね。少しお茶を飲みながら待ちましょうか」
「気になりますよね。一緒にカレンダーを見てみましょう」
「大丈夫ですよ。ここで少し休んでから確認しましょう」
というように、本人の気持ちを置き去りにしない声かけが大切です。
場面別に考える声かけの工夫
「ご飯はまだ?」を繰り返す場合
食事に関する質問は、認知症の利用者さんからよく聞かれる内容です。
「ご飯はまだ?」
「もう食べた?」
「何時に食べるの?」
このような言葉が続く背景には、空腹だけでなく、時間の感覚がわかりにくいことや、予定が見えない不安が関係している場合があります。
対応するときは、単に「まだです」と返すだけではなく、安心できる情報を短く伝えるとよい場合があります。
たとえば、
・「あと少しで昼食です。こちらで待ちましょう」
・「今、準備しています。できたらお声かけしますね」
・「もう食べ終わっています。お茶を飲んで少し休みましょう」
ただし、「もう食べましたよ」と伝えると不安や不満が強くなる人もいます。
その場合は、「お腹が気になるんですね」「何か飲みながら少し待ちましょうか」と気持ちに寄り添う方が落ち着きやすいこともあります。
食事量、血糖管理、嚥下状態、医師や看護師の指示が関係する場合は、介護職だけで判断せず、看護師や上司に確認しましょう。
「家に帰りたい」を繰り返す場合
「家に帰りたい」という訴えは、介護職が対応に迷いやすい場面です。
本人にとっての「家」は、今の住まいではなく、昔住んでいた家や、安心できる場所を指していることもあります。
そのため、「ここがあなたの家です」「今日は帰れません」とすぐに訂正すると、かえって不安や怒りが強くなることがあります。
まずは、帰りたい気持ちを受け止めることが大切です。
・「お家が気になるんですね」
・「帰りたくなるくらい心配なんですね」
・「どんなお家でしたか?」
・「ご家族のことを思い出されたんですね」
このように話を聞くことで、本人の気持ちが少し落ち着く場合があります。
その後で、
・「少し休んでから考えましょう」
・「お茶を飲んでから確認しましょう」
・「一緒にこちらで待ちましょう」
と、今できる行動へつなげます。
注意したい場面
帰宅願望が強く、立ち上がりや出口へ向かう行動がある場合は、転倒や離設のリスクがあります。
一人で対応しようとせず、すぐに周囲の職員へ共有しましょう。
「同じ昔話」を何度も話す場合
同じ昔話を繰り返す利用者さんもいます。
たとえば、仕事の話、子育ての話、戦争や苦労した時代の話、若い頃の思い出などです。
この場合、質問とは違い、本人が大切にしている記憶を何度も話していることがあります。
介護職が毎回最初から最後まで聞き続けるのは大変ですが、話そのものには本人らしさが出ていることもあります。
対応の工夫としては、
・最初の数分はしっかり相づちを打つ
・話の中の感情に返事をする
・同じ話でも新しい情報を一つ探す
・忙しいときは短く受け止めてから離れる
・他の職員とも共有し、対応を分担する
などがあります。
たとえば、
「そのお仕事を長く頑張ってこられたんですね」
「そのときは大変でしたね」
「何度聞いても大切なお話ですね」
「またあとで聞かせてくださいね」
といった声かけが考えられます。
ただし、つらい記憶や怒りにつながる話の場合は、無理に深掘りしない方がよいこともあります。本人の表情や声の強さを見ながら、必要に応じて上司や専門職に相談しましょう。
「不安な確認」を何度もする場合
認知症の利用者さんの中には、同じ確認を何度もする人がいます。
「財布はどこ?」
「家族は来る?」
「薬は飲んだ?」
「私はここにいていいの?」
「迷惑をかけていない?」
このような質問には、不安や遠慮、自信のなさが隠れていることがあります。
特に、「迷惑をかけていない?」と繰り返す人に対して、「大丈夫です」とだけ返しても、すぐにまた不安になることがあります。
その場合は、安心できる言葉を少し具体的にするとよい場合があります。
| 利用者さんの言葉 | 背景にありそうな気持ち | 声かけの例 |
|---|---|---|
| 財布はどこ? | 大事な物を失くした不安 | 「大事な物だから心配ですね。一緒に確認しましょう」 |
| 家族は来る? | 会えない寂しさや予定の不安 | 「ご家族が気になるんですね。予定を確認しておきますね」 |
| 薬は飲んだ? | 体調への心配 | 「心配ですね。記録を確認しますね」 |
| ここにいていいの? | 居場所への不安 | 「もちろん大丈夫です。ここで安心して過ごしてくださいね」 |
| 迷惑じゃない? | 遠慮や申し訳なさ | 「そう思ってくださるんですね。困っていませんよ」 |
大事なのは、安心させようとして事実と違うことを言い切らないことです。
薬や家族の予定、金銭管理などは、介護職だけで判断せず、記録や上司、看護師、相談員などに確認してから伝えることが大切です。
介護職が疲れすぎないための対応の整え方
一人で毎回受け止めようとしない
認知症の利用者さんが同じ話を繰り返すとき、真面目な介護職ほど「自分がちゃんと対応しなければ」と思いやすいです。
しかし、何度も同じ話に対応し続けるのは、一人では負担が大きくなります。
特に、特定の職員にだけ同じ訴えが集中する場合、その職員の疲労がたまりやすくなります。
そのため、対応を個人の頑張りだけにしないことが大切です。
たとえば、申し送りで以下のように共有できます。
・何時頃に同じ話が増えるのか
・どんな言葉を繰り返すのか
・何をすると落ち着きやすいのか
・逆に不安が強くなる声かけは何か
・転倒や離設などのリスクはあるか
共有するときのポイント
「何度も言って困る人」として共有するのではなく、
「この時間に不安が強くなりやすい」
「この声かけで落ち着きやすい」
という形で伝えると、チームで対応しやすくなります。
声かけのパターンを決めておく
同じ話への対応で疲れやすい理由の一つは、その場その場で返答を考え続けることです。
何度も同じ質問をされるたびに、毎回違う言葉を探していると、介護職側の負担が増えます。
そこで、よくある質問に対して、短い声かけのパターンを用意しておくと対応しやすくなります。
たとえば、
・「心配ですね。確認しますね」
・「大丈夫ですよ。こちらで待ちましょう」
・「気になりますよね。少し一緒に見てみましょう」
・「あとでお声かけしますね」
・「ここにいて大丈夫ですよ」
このような言葉を自分の中に持っておくと、忙しい場面でも感情的になりにくくなります。
ただし、利用者さんによって安心しやすい言葉は違います。
ある人には「大丈夫ですよ」が安心につながっても、別の人には軽く流されたように感じられることもあります。反応を見ながら、職場で合う声かけを共有していくことが大切です。
記録に残して対応を積み上げる
同じ話を繰り返す利用者さんへの対応は、記録が役立ちます。
その場でうまくいった声かけや、落ち着きやすい時間帯、逆に不安が強くなった場面を残しておくと、次の勤務者が対応しやすくなります。
記録に残すときは、感情的な表現ではなく、客観的に書くことが大切です。
たとえば、
悪い例としては、
・何度も同じことを言ってしつこい
・帰ると言って困らせる
・説明しても理解しない
このような書き方は、利用者さんへの見方が偏りやすくなります。
一方で、以下のように書くと共有しやすくなります。
・15時頃より「家に帰りたい」と繰り返し訴えあり
・「家のことが心配なんですね」と声かけし、お茶へ誘導すると表情落ち着く
・夕食前に「ご飯はまだ?」と複数回確認あり
・カレンダーと時計を一緒に確認すると一時的に安心された様子
記録は、介護職を守る意味でも大切です。
「なんとなく大変」ではなく、どの時間に、どんな訴えがあり、どう対応したかを残すことで、上司や他職種に相談しやすくなります。
環境を整えることで同じ質問が減る場合もある
声かけだけでなく、環境を整えることで不安が軽くなることもあります。
たとえば、日付や予定がわからず不安になっている人には、見やすいカレンダーや予定表が役立つ場合があります。
食事時間を何度も聞く人には、食堂へ移動するタイミングや、食事前の過ごし方を整えることで落ち着くことがあります。
ただし、掲示物を増やせばよいわけではありません。情報が多すぎると、かえって混乱することもあります。
環境面の工夫
□ カレンダーや時計は見やすい位置にあるか
□ 予定を伝える言葉が職員間で大きく違っていないか
□ 食前や夕方など、不安が強くなる時間帯がないか
□ 席の位置や周囲の音で落ち着きにくくなっていないか
□ 本人が安心できる物や習慣があるか
□ 訴えが増える前に声をかける工夫ができるか
環境調整は、利用者さんの状態や施設の方針によってできる範囲が変わります。勝手に物の配置を変えたり、家族の持ち物を使ったりせず、上司や担当職員と相談しながら行いましょう。
やってしまいがちなNG対応と見直し方
「さっきも言いましたよ」と返してしまう
忙しい現場では、つい「さっきも言いましたよ」と言いたくなることがあります。
しかし、この言葉は利用者さんにとって責められたように聞こえる場合があります。
本人は本当に覚えていなかったり、不安で確認せずにいられなかったりするため、「何度も聞いてはいけない」と言われたように感じてしまうことがあります。
もちろん、介護職も人間なので、疲れているときに完璧な声かけを続けるのは難しいです。
もし言ってしまったとしても、自分を責め続けるのではなく、次に言い換えれば大丈夫です。
たとえば、
・「心配でしたね」
・「もう一度確認しましょう」
・「大丈夫ですよ、こちらで待ちましょう」
という言葉に切り替えるだけでも、場の雰囲気が変わることがあります。
正論で説得しようとしすぎる
同じ話を繰り返す利用者さんに対して、正論で説得しようとすると、かえってこじれることがあります。
たとえば、「家に帰る」と言う人に対して、
「ここが施設です」
「今日は帰る日ではありません」
「ご家族も来ません」
「何度説明しても同じですよ」
と伝えても、本人が納得できない場合があります。
認知症の方の不安は、説明だけで解決しないことがあります。
そのため、正しい情報を伝えることよりも、まず不安を落ち着かせることが必要な場面があります。
対応の切り替え
説明しても落ち着かないときは、
「もっと説明する」ではなく、
「安心できる行動につなげる」
という視点に切り替えてみましょう。
たとえば、座ってお茶を飲む、本人の話を少し聞く、落ち着ける場所へ移動する、別の職員に代わるなどです。
その場しのぎの嘘に頼りすぎる
同じ話への対応では、本人を落ち着かせるために話を合わせる場面もあります。
ただし、その場しのぎの嘘に頼りすぎると、後で混乱や不信感につながることがあります。
たとえば、「家族がすぐ迎えに来ますよ」と言ってしまうと、本人がずっと待ち続けて不安になる可能性があります。
また、職員によって違うことを言うと、「誰の話が本当なのか」と混乱することもあります。
そのため、言い方には注意が必要です。
「すぐ来ます」と断定するのではなく、
・「予定を確認してみますね」
・「気になりますよね」
・「わかったらお伝えしますね」
・「それまでこちらで待ちましょう」
といった表現にすると、事実と大きくずれにくくなります。
ただし、施設の方針や本人の状態によって適切な対応は変わります。迷う場合は自己判断せず、上司、看護師、相談員、ケアマネジャーなどに確認しましょう。
急に話を打ち切ると不安が強くなることがある
忙しいときほど、同じ話を早く終わらせたくなります。
しかし、利用者さんの話を急に遮ったり、「はいはい」と流したりすると、不安が残り、さらに同じ話が続くことがあります。
もちろん、すべての話を長時間聞く必要はありません。
大切なのは、短くても「聞いてもらえた」と感じられる関わりを作ることです。
たとえば、
「心配なんですね。今から別の方の介助に行くので、戻ったらまた声をかけますね」
「お話ありがとうございます。少しこちらで待っていてくださいね」
「気になることなんですね。職員にも共有しておきますね」
このように、短く区切りながらも、本人の気持ちを置き去りにしない言葉を使うと、介護職側も負担を減らしやすくなります。
職場全体で対応しやすくするためにできること
申し送りで「困った行動」ではなく「背景」を共有する
同じ話を繰り返す利用者さんについて共有するとき、「また同じ話をしていた」「何度も聞いてくる」とだけ伝えると、職員の中でネガティブな印象が強くなることがあります。
もちろん、現場で困っている事実を伝えることは必要です。
ただし、それに加えて「なぜ繰り返しているのか」「どんなときに増えるのか」「何をすると落ち着きやすいのか」を共有すると、対応が前向きになります。
たとえば、
・夕方になると「家に帰りたい」が増える
・入浴前に予定がわからず不安そうになる
・食事前に「ご飯はまだ?」を繰り返す
・カレンダー確認よりも職員の声かけで落ち着きやすい
・大きな声で訂正すると表情が険しくなる
このように共有すると、他の職員も同じ視点で関われます。
認知症の対応は、職員一人の接し方だけで変わるものではありません。チームで関わることで、利用者さんも職員も安心しやすくなります。
新人介護職は先輩の声かけを観察する
未経験や新人の介護職は、認知症の利用者さんが同じ話を繰り返す場面で、どう返せばいいかわからないことがあります。
その場合は、まず先輩職員の声かけを観察するのが有効です。
見るポイントは、言葉だけではありません。
・どの距離で話しているか
・声の大きさはどれくらいか
・目線を合わせているか
・話をどこで切り替えているか
・どのタイミングで他の行動に誘導しているか
・利用者さんの表情がどう変わるか
同じ言葉でも、言い方や表情、間の取り方で伝わり方が変わります。
また、先輩の対応がすべて正解というわけでもありません。疑問に感じたときは、「あの場面では、なぜその声かけをしたんですか?」と聞いてみると学びになります。
対応に限界を感じたら交代してもよい
同じ話への対応が続くと、介護職自身が疲れてしまうことがあります。
イライラしている状態で無理に対応を続けると、言葉が強くなったり、利用者さんにも不安が伝わったりすることがあります。
そのようなときは、可能であれば他の職員に交代してもらうことも大切です。
交代することは、逃げではありません。
利用者さんにとっても、職員にとっても、安全で落ち着いた関わりを保つための工夫です。
疲れたときの合図
□ 声が強くなりそうになる
□ 同じ質問に返事をするのがつらい
□ 「何回言えばわかるの」と思ってしまう
□ 忙しさで表情が硬くなっている
□ その利用者さんの対応だけで気持ちが重くなる
□ 勤務後も同じ場面を思い出して疲れる
このような状態が続く場合は、一人で抱え込まず、上司や先輩に相談しましょう。
認知症対応は経験で慣れる部分もありますが、合わない職場環境や人員不足の中で無理を続けると、介護職自身が消耗してしまいます。
家族や他職種から情報を得ると対応のヒントになる
同じ話を繰り返す背景には、本人の生活歴が関係していることがあります。
たとえば、昔から仕事熱心だった人が「仕事に行かないと」と繰り返す場合、その人にとって仕事が大切な役割だったのかもしれません。
子どもの話を繰り返す人は、家族を大切にしてきた気持ちが強く残っているのかもしれません。
家に帰りたい訴えが多い人は、昔住んでいた地域や家族との思い出が安心につながっている場合があります。
こうした情報は、介護職だけではわからないこともあります。
家族、相談員、ケアマネジャー、看護師、リハビリ職などから情報を得ることで、声かけのヒントが見つかることがあります。
たとえば、
・昔の仕事
・好きだった習慣
・大切にしていた役割
・落ち着きやすい話題
・不安になりやすい出来事
・家族との関係
・苦手な声かけや環境
などです。
ただし、個人情報の扱いには注意が必要です。必要な範囲で、職場のルールに沿って共有しましょう。
まとめ:同じ話の繰り返しは「困った行動」だけで見ないことが大切
認知症の利用者さんが同じ話を繰り返すと、介護職は疲れを感じやすくなります。
何度も同じ質問をされたり、同じ訴えが続いたりすると、頭では理解していても、気持ちが追いつかないことがあります。
しかし、同じ話の背景には、記憶の障害だけでなく、不安、寂しさ、確認したい気持ち、過去の大切な記憶などが関係している場合があります。
そのため、まずは「また同じ話」と受け止めるだけでなく、「この人は何に不安を感じているのか」「何を確認したいのか」と考えることが大切です。
対応では、否定や訂正を急がず、短くわかりやすい声かけを意識しましょう。
そして、介護職が疲れないためには、一人で抱え込まないことも重要です。声かけの工夫、記録、申し送り、職員間の役割分担を通して、チームで対応を整えていく必要があります。
この記事のまとめ
・認知症の利用者さんが同じ話を繰り返す背景には、不安や記憶の障害が関係していることがある
・「さっきも言いましたよ」と否定すると、不安や混乱が強くなる場合がある
・声かけは短く、わかりやすく、本人の気持ちを受け止めてから行う
・同じ質問には、職員間で対応を共有すると負担を減らしやすい
・介護職が疲れたときは、交代や相談をして一人で抱え込まない
・対応に迷う場合は、上司、看護師、相談員など専門職へ確認することが大切
認知症の同じ話への対応に、毎回完璧な正解があるわけではありません。
大切なのは、利用者さんを責めず、介護職自身も責めすぎず、少しずつ関わり方を整えていくことです。
うまく対応できない日があっても、それだけで介護職に向いていないとは言えません。
利用者さんの不安を減らしながら、自分自身の負担も減らせる方法を、職場の仲間と一緒に探していきましょう。


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