認知症の利用者さんへの声かけは、介護職にとって毎日のように向き合う大切な関わりです。
しかし、現場では「何度も同じことを聞かれてつい強く言ってしまう」「介助を拒否されると、どう声をかければいいかわからない」「よかれと思った言葉で余計に怒らせてしまった」と悩む場面もあります。
認知症の方への声かけでは、正しい言葉を覚えること以上に、避けたいNG対応を知っておくことが大切です。言葉の選び方や表情、距離感によって、利用者さんの不安が和らぐこともあれば、混乱や拒否につながることもあります。
この記事では、認知症の声かけで避けたいNGな対応、介護職が気をつけたい言葉、現場で使いやすい関わり方をわかりやすく解説します。
この記事でわかること
・認知症の声かけでNGになりやすい対応
・介護職が避けたい言葉とその理由
・利用者さんを不安にさせやすい関わり方
・場面別の声かけの工夫
・声かけに失敗したときの立て直し方
・一人で抱え込まないための確認ポイント
認知症の声かけでNG対応が起こりやすい理由
認知症の方は「言葉の内容」だけでなく雰囲気も受け取っている
認知症の方への声かけでは、言葉そのものだけでなく、職員の表情、声の大きさ、話す速さ、立ち位置なども大きく影響します。
たとえば、職員が忙しくて早口になっていると、利用者さんは内容を理解する前に「急かされている」「怒られている」と感じることがあります。実際には責めるつもりがなくても、声のトーンや表情によって不安が強くなる場合があります。
認知症があると、話の内容をすぐに理解したり、記憶したりすることが難しくなることがあります。一方で、相手の雰囲気や感情には敏感に反応する方も少なくありません。
そのため、認知症の声かけでは「何を言うか」と同じくらい、「どのように伝えるか」が重要になります。
介護職側の焦りがNGな言葉につながることがある
介護現場では、決められた時間の中で多くの業務を進める必要があります。
食事、排泄介助、入浴介助、服薬確認、記録、ナースコール対応などが重なると、職員側に余裕がなくなることもあります。そのような状況で、利用者さんが同じ話を繰り返したり、介助を拒否したりすると、つい強い言い方になってしまうことがあります。
たとえば、次のような言葉です。
・「さっきも言いましたよ」
・「何回言えばわかるんですか」
・「早くしてください」
・「もう時間がないんです」
・「違います、そうじゃないです」
これらは介護職が悪意を持って言っているとは限りません。むしろ、忙しさや焦り、責任感から出てしまうこともあります。
ただし、利用者さんにとっては責められているように感じられ、混乱や不穏、介助拒否につながる場合があります。
覚えておきたいこと
認知症の声かけでNGになりやすい言葉は、介護職の性格が悪いから出るとは限りません。
忙しさ、焦り、疲れ、職場の人手不足などが重なると、誰でも強い言葉になりやすくなります。
大切なのは、自分を責めることではなく、次にどう関わるかを見直すことです。
「正論」でも利用者さんを追い詰めることがある
認知症の方への声かけで難しいのは、正しいことを伝えているつもりでも、相手にとっては苦しく感じられる場合があることです。
たとえば、帰宅願望のある利用者さんに対して「ここがあなたの家ではありません」「もう家には帰れません」と伝えると、事実としては間違っていない場合もあります。しかし、利用者さんの中では「家に帰らなければいけない」という不安が強くなっていることがあります。
その状態で正論だけを伝えると、利用者さんは納得するよりも、否定された、閉じ込められている、わかってもらえないと感じることがあります。
認知症の声かけでは、事実を正す前に、まず本人が何に困っているのか、何を不安に感じているのかを受け止める姿勢が大切です。
NG対応は「言葉」だけでなく関わり方にもある
認知症の声かけでNGとされるものは、言葉だけではありません。
たとえば、急に後ろから話しかける、本人の話を途中で遮る、複数人で一度に話す、本人の前で本人のことを他職員と話すといった関わり方も、利用者さんを不安にさせることがあります。
特に介助場面では、利用者さんの体に触れる前の声かけが大切です。説明がないまま腕を引いたり、服を脱がせようとしたりすると、利用者さんは「何をされるのかわからない」と感じて抵抗することがあります。
認知症の方にとって、理解できないまま体を動かされることは怖い体験になりやすいです。介護職は、声かけと動作をセットで丁寧に行う必要があります。
介護職が避けたい認知症の声かけと言葉の例
「さっき言いましたよ」は不安や混乱を強めやすい
認知症の利用者さんが同じ質問を繰り返す場面は、介護現場でよくあります。
「今日は何曜日ですか」「ご飯はまだですか」「家族はいつ来ますか」など、同じ内容を何度も聞かれると、介護職も疲れてしまうことがあります。
しかし、「さっき言いましたよ」「何回も聞いていますよ」と返すと、利用者さんは質問の答えを得るよりも、責められた印象を受けやすくなります。
本人は、同じ質問をしている自覚がない場合もあります。そのため、職員からすると繰り返しでも、本人にとっては毎回初めて聞いている感覚に近いことがあります。
| NGになりやすい声かけ | 伝わりやすい言い換え |
|---|---|
| さっきも言いましたよ | お昼ご飯は12時頃です。もう少しで準備できますよ |
| 何回も聞いていますよ | 気になりますよね。今確認しますね |
| 覚えていないんですか | 大丈夫ですよ。一緒に確認しましょう |
| まだです。待ってください | あと少しです。こちらで一緒に待ちましょう |
同じ質問にすべて完璧に対応しようとすると、介護職側も疲れてしまいます。必要に応じて、時計、予定表、メモ、写真などを使いながら、言葉だけに頼りすぎない工夫も大切です。
「違います」「ダメです」だけでは納得につながりにくい
認知症の方が事実と違うことを話したり、危険な行動をしようとしたりする場面では、介護職として止めなければいけないことがあります。
たとえば、歩行が不安定な方が一人で立ち上がろうとする、食べてはいけないものを口に入れようとする、他の利用者さんの物を自分の物だと思って持っていくなどです。
このような場面で、「違います」「ダメです」「やめてください」と強く言うと、利用者さんは理由を理解する前に否定されたと感じることがあります。
もちろん、安全のために止める必要がある場面はあります。転倒や誤嚥、事故につながる可能性がある場合は、すぐに対応しなければなりません。
ただし、その後の声かけでは、否定だけで終わらせず、短く理由を添えたり、別の行動へ誘導したりすることが大切です。
声かけの工夫
「ダメです」だけで止めるより、
「危ないので、こちらで一緒に行きましょう」
「転ぶと心配なので、職員と一緒に立ちましょう」
「こちらを先に確認しましょう」
のように、理由と次の行動をセットで伝えると、混乱を減らしやすくなります。
子ども扱いする言葉は尊厳を傷つけやすい
認知症がある利用者さんに対して、つい幼い子どもに話すような口調になってしまうことがあります。
「ちゃんとできたね」「いい子ですね」「お利口ですね」「こっちに来ようね」などの言葉は、職員側に悪気がなくても、相手の尊厳を傷つける可能性があります。
介護を受ける状態であっても、利用者さんは人生経験を重ねてきた一人の大人です。認知症があっても、尊重されたい気持ちや恥ずかしさは残っていることがあります。
特に排泄介助、入浴介助、更衣介助などでは、利用者さんが自分の弱い部分を見せることになります。その場面で子ども扱いのような声かけをされると、恥ずかしさや怒りにつながることもあります。
声かけでは、やさしさと馴れ馴れしさを混同しないことが大切です。
・名前は本人や家族の希望に合わせる
・丁寧語を基本にする
・できないことだけでなく、できている部分を見る
・介助の前には一言説明する
・人前で大きな声で注意しない
このような配慮が、利用者さんの安心感につながります。
脅すような言い方は信頼関係を崩しやすい
忙しい現場では、利用者さんに動いてもらうために、つい強い言葉を使ってしまうことがあります。
たとえば、次のような声かけです。
・「言うことを聞かないと転びますよ」
・「食べないなら片付けますよ」
・「入らないなら知りませんよ」
・「そんなことをすると家族に言いますよ」
・「みんな困っていますよ」
このような言葉は、一時的に行動を止められることがあるかもしれません。しかし、利用者さんに恐怖や不信感を与えやすく、長い目で見ると介助が難しくなることがあります。
認知症の方は、言われた内容を忘れても、嫌な気持ちだけが残る場合があります。「あの職員は怖い」「ここは安心できない」と感じると、その後の声かけにも拒否が出やすくなります。
介護職は利用者さんを動かすために声をかけるのではなく、安心して行動してもらうために声をかけるという意識が大切です。
NGな声かけが起こりやすい場面と注意点
食事場面では急かす言葉に注意する
食事介助では、時間内に食事を終える必要があったり、次の業務が控えていたりして、介護職側が焦りやすい場面です。
しかし、認知症の利用者さんに対して「早く食べてください」「まだ残っていますよ」「ちゃんと飲み込んでください」と声をかけると、食事そのものが負担に感じられることがあります。
食事は栄養を取るだけでなく、本人にとって楽しみや安心につながる時間でもあります。急かされると、むせ込みや誤嚥のリスクが高まる場合もあるため、食事ペースの確認は慎重に行う必要があります。
食べるスピードが遅い、飲み込みが気になる、むせが増えた、食事量が急に減ったなどの場合は、介護職だけで判断せず、看護師や管理栄養士、言語聴覚士などの専門職に相談することが大切です。
食事場面で避けたい声かけ
□ 早く食べてください
□ まだこんなに残っていますよ
□ ちゃんと飲み込んでください
□ こぼさないでください
□ 食べないなら下げますよ
代わりに、「一口ずつで大丈夫ですよ」「お茶を飲みましょうか」「少し休みますか」など、本人のペースを確認する声かけを意識するとよいでしょう。
排泄介助では恥ずかしさを前提に関わる
排泄介助は、認知症の有無に関係なく、利用者さんにとって恥ずかしさや不安を感じやすい場面です。
認知症がある方の場合、トイレの場所がわからない、排泄のタイミングがつかみにくい、パッド交換の意味が理解できないなどの理由で、拒否や怒りにつながることがあります。
このとき、「汚れていますよ」「臭いますよ」「早く替えましょう」といった言葉は、本人を傷つける可能性があります。事実であっても、伝え方によっては恥をかかされたように感じることがあります。
排泄介助では、周囲に聞こえない声量で、短く、落ち着いて伝えることが大切です。
たとえば、次のような声かけが考えられます。
・「お手洗いに一緒に行きましょう」
・「少し整えるお手伝いをしますね」
・「気持ちよく過ごせるように替えましょう」
・「寒くないようにすぐ終わりますね」
利用者さんが拒否する場合は、無理に進めるのではなく、時間を置く、別の職員に代わる、声かけの仕方を変えるなどの対応も必要です。皮膚トラブルや感染リスクがある場合は、看護師や上司に相談しながら進めましょう。
入浴や更衣では「説明不足」が拒否につながりやすい
入浴介助や更衣介助では、服を脱ぐ、体を洗う、浴室へ移動するなど、利用者さんにとって不安を感じやすい動きが多くなります。
認知症の方にとって、今どこへ行くのか、何をされるのか、なぜ服を脱ぐのかがわからないまま介助されると、強い恐怖につながる場合があります。
この場面で「お風呂ですよ」「脱いでください」「早く着替えましょう」と一方的に伝えるだけでは、本人が納得しにくいことがあります。
特に、男性職員・女性職員の関わり、身体を見られることへの抵抗、寒さ、浴室の音や湯気への不安など、拒否の理由はさまざまです。
| 場面 | NGになりやすい対応 | 関わり方の工夫 |
|---|---|---|
| 入浴前 | いきなり浴室へ誘導する | 「体を温めに行きましょう」と目的を短く伝える |
| 更衣時 | すぐ服を脱がせようとする | 「袖からお手伝いしますね」と動作を先に伝える |
| 洗身時 | 無言で体に触れる | 「背中を流しますね」と触れる前に声をかける |
| 拒否時 | 「入らないと困ります」と迫る | 理由を探り、時間や職員を変える |
入浴や更衣の声かけでは、本人の羞恥心と安全を両方大切にする必要があります。拒否が強い場合は、体調不良、痛み、過去の嫌な経験、環境の不快感などが隠れていることもあるため、記録や申し送りで共有しましょう。
移動や移乗では危険を伝えすぎない工夫も必要
転倒リスクがある利用者さんに対して、介護職は安全を守るために声をかけます。
しかし、「危ないです」「転びますよ」「動かないでください」と何度も言われると、利用者さんによっては不安が強くなり、かえって動きが硬くなることがあります。
もちろん、危険が迫っている場面ではすぐに止める必要があります。ただし、普段の声かけでは、恐怖を与える言葉よりも、安心して動ける言葉を選ぶことが大切です。
たとえば、次のような声かけです。
・「ゆっくり立ちましょう」
・「私が横にいますね」
・「手すりを持ってから立ちましょう」
・「足元を確認しますね」
・「座るところを一緒に見ましょう」
移乗介助や歩行介助は、利用者さんの身体状況によって対応が大きく変わります。介護職だけで判断せず、必要に応じてリハビリ職、看護師、上司に確認し、施設の介助方法に沿って対応しましょう。
認知症の方に伝わりやすい声かけの考え方
まず否定せず、本人の気持ちを受け止める
認知症の声かけでは、最初から説明や訂正をするよりも、まず本人の気持ちを受け止める方が落ち着きやすいことがあります。
たとえば、「家に帰りたい」と言う利用者さんに対して、すぐに「ここが施設です」「今日は帰れません」と伝えると、本人の不安が強くなる場合があります。
その前に、「家のことが気になるんですね」「帰りたい気持ちなんですね」と受け止めることで、利用者さんは少し安心しやすくなります。
これは、嘘をつくという意味ではありません。本人の中にある不安や心配を否定せず、まず気持ちに寄り添うということです。
関わり方の基本
認知症の方への声かけでは、
「正す」より先に「受け止める」
「説得する」より先に「安心してもらう」
ことを意識すると、関係が崩れにくくなります。
短い言葉で一つずつ伝える
認知症の方には、長い説明が伝わりにくいことがあります。
「これからお部屋に戻って、上着を着替えて、それから食堂に行ってご飯を食べましょう」のように一度に複数のことを伝えると、途中でわからなくなる場合があります。
声かけは、できるだけ短く、一つずつ伝えることが大切です。
たとえば、次のように区切ります。
・「お部屋に戻りましょう」
・「上着を着替えますね」
・「食堂に行きましょう」
・「こちらに座りましょう」
一つの動作が終わってから次を伝えると、利用者さんも理解しやすくなります。
また、声かけと一緒に、手ぶりや物を見せることも効果的です。タオルを見せて「顔を拭きましょう」、上着を見せて「こちらを着ましょう」と伝えると、言葉だけより理解しやすい場合があります。
選択肢を出しすぎない
利用者さんの意思を尊重することは大切です。
ただし、認知症の方にたくさんの選択肢を一度に出すと、かえって混乱することがあります。
「お風呂にしますか、着替えますか、トイレに行きますか、それとも後にしますか」と聞かれると、何を選べばよいかわからなくなる場合があります。
選択肢を出す場合は、2つ程度にしぼると伝わりやすくなります。
・「今行きますか、少し休んでから行きますか」
・「こちらの服とこちらの服、どちらにしますか」
・「お茶とお水、どちらにしますか」
・「先にトイレに行きますか、食堂に行きますか」
選択肢をしぼることで、本人の意思を尊重しながら、混乱を減らしやすくなります。
声の大きさと立ち位置を整える
認知症の声かけでは、言葉の内容だけでなく、声の大きさや距離も大切です。
遠くから大きな声で呼ぶと、利用者さんは驚いたり、周囲に注意されたように感じたりすることがあります。反対に、聞こえにくい声で話すと、内容が伝わらず不安につながることもあります。
基本的には、利用者さんの正面または少し斜め前から、目線を合わせて話すと安心しやすくなります。急に後ろから声をかけたり、上から見下ろすように話したりするのは避けた方がよいでしょう。
声かけ前の確認ポイント
□ 利用者さんの視界に入っているか
□ 驚かせる位置から話しかけていないか
□ 声が大きすぎたり早口になったりしていないか
□ 周囲に他の人が多すぎないか
□ 本人が痛みや眠気、体調不良を感じていないか
声かけがうまくいかないときは、言葉だけを変えるのではなく、環境や距離感も見直してみましょう。
NGな声かけをしてしまったときの立て直し方
すぐに言い訳せず、まず落ち着く
介護職も人間なので、忙しさや疲れから強い言葉が出てしまうことがあります。
「さっき言いましたよ」「早くしてください」と言った後に、利用者さんの表情が曇ったり、怒ったり、不安そうになったりして、後悔することもあるかもしれません。
そのときに大切なのは、すぐに言い訳を重ねないことです。
「忙しかったから仕方ない」「何度も聞くからですよ」と言ってしまうと、さらに関係が悪くなることがあります。まずは自分の声のトーンを落とし、少し間を置いてから、短く言い直すことが大切です。
たとえば、「すみません、急がせてしまいましたね」「もう一度ゆっくりお伝えしますね」と伝えるだけでも、雰囲気が変わることがあります。
利用者さんの反応を観察する
声かけのあとに利用者さんが怒った、黙り込んだ、泣きそうになった、介助を拒否した場合は、言葉が強すぎた可能性があります。
もちろん、すべてが声かけだけの影響とは限りません。体調不良、痛み、空腹、眠気、環境の変化、他利用者さんとの関係など、さまざまな要因が関係していることがあります。
そのため、「自分の声かけが悪かった」と一人で抱え込むのではなく、利用者さんの様子を観察し、必要に応じて記録や申し送りで共有することが大切です。
観察したいポイントは次の通りです。
・どの言葉の後に表情が変わったか
・どの場面で拒否が出たか
・同じ職員だけに拒否があるか
・時間帯によって反応が違うか
・痛みや体調不良のサインがないか
認知症の方の反応には理由があることが多いです。声かけの見直しは、本人を理解する手がかりにもなります。
別の職員に代わる判断も必要
声かけがうまくいかないとき、同じ職員が何度も関わることで、利用者さんの拒否が強くなる場合があります。
そのようなときは、無理に自分一人で対応しようとせず、別の職員に代わることも大切です。
これは「自分ができないから失敗」という意味ではありません。認知症ケアでは、相性、タイミング、声のトーン、性別、利用者さんの気分などによって反応が変わることがあります。
特に入浴介助、排泄介助、服薬、医療的な確認が関わる場面では、無理に進めると事故やトラブルにつながる可能性があります。判断に迷う場合は、上司や看護師に相談しましょう。
無理に続けない方がよい場面
□ 利用者さんの拒否が強くなっている
□ 怒りや不安が高まっている
□ 介助中に転倒や事故の危険がある
□ 体調不良や痛みが疑われる
□ 職員側も冷静に関われなくなっている
一度距離を置くことで、後からスムーズに関われることもあります。
チームで声かけを統一する
認知症の方への声かけは、職員によって対応が大きく違うと、利用者さんが混乱しやすくなります。
ある職員は「待っていてください」と言い、別の職員は「すぐ行きましょう」と言う。ある職員は丁寧に説明するのに、別の職員は急かす。このような違いが続くと、利用者さんは何を信じればよいかわからなくなることがあります。
そのため、特に拒否や不穏が出やすい利用者さんについては、チームで声かけの方針を共有することが大切です。
たとえば、次のような内容を申し送りで共有します。
・落ち着きやすい声かけ
・避けた方がよい言葉
・拒否が出やすい時間帯
・安心しやすい職員の関わり方
・家族や生活歴に関する情報
・体調変化や痛みの有無
声かけは個人の技術だけでなく、チーム全体で積み上げるものです。うまくいった関わり方は、記録や申し送りで共有すると現場全体が楽になります。
認知症の声かけで介護職が疲れすぎないために
すべてを完璧に受け止めようとしない
認知症の方への声かけでは、同じ質問、同じ訴え、急な怒り、介助拒否などに何度も向き合うことがあります。
そのたびに完璧な対応をしようとすると、介護職自身が疲れ切ってしまいます。
大切なのは、毎回満点の声かけをすることではなく、利用者さんの安全と尊厳を守りながら、できる範囲で落ち着いて関わることです。
「また同じことを聞かれた」と感じる自分を責めすぎる必要はありません。疲れているときは、誰でも余裕がなくなります。
認知症ケアでは、介護職自身の心の余裕も大切です。自分が限界に近いと感じたときは、早めに周囲に相談しましょう。
声かけだけで解決しようとしない
認知症の方の不安や拒否は、声かけだけで解決できるとは限りません。
たとえば、何度も立ち上がる方には、トイレに行きたい、痛みがある、座り心地が悪い、退屈している、家族が気になるなど、さまざまな理由があるかもしれません。
その状態で声かけだけを変えても、根本的な不安や不快感が残っていれば、同じ行動が続くことがあります。
声かけとあわせて、次のような視点で確認することが大切です。
| 見るポイント | 確認したいこと |
|---|---|
| 体調 | 痛み、発熱、便秘、眠気、空腹などはないか |
| 環境 | 騒音、寒さ、暑さ、照明、座席の位置は合っているか |
| 生活リズム | 眠れているか、活動量が不足していないか |
| 人間関係 | 苦手な相手や不安になる場面はないか |
| 介助方法 | 説明不足や急な動作になっていないか |
認知症の声かけは大切ですが、声かけだけに責任を背負わせないことも大切です。
困った声かけは記録に残す
現場で「この声かけはうまくいった」「この言い方だと怒りやすい」と感じたことは、記録や申し送りに残すと役立ちます。
認知症の方への関わりは、職員一人だけが知っていても、勤務交代で途切れてしまいます。チームで情報を共有することで、利用者さんにとっても安心できる関わりが増えます。
記録するときは、感情的な表現ではなく、事実を中心に書くことが大切です。
たとえば、「わがままが強い」ではなく、「入浴の声かけで『寒い』と話され拒否あり。時間を置き、女性職員が声かけすると入浴できた」のように書くと、次の対応につながりやすくなります。
記録は職員を責めるためではなく、利用者さんを理解し、チームで対応をそろえるためのものです。
自分の言葉がきつくなっているサインに気づく
介護職が疲れているときは、声かけにもサインが出ます。
たとえば、普段より早口になる、語尾が強くなる、利用者さんの話を最後まで聞けない、ため息が増える、同じ質問にイライラしやすくなるなどです。
このような状態に気づいたら、自分を責めるよりも、まず休憩や相談が必要なサインとして受け止めましょう。
介護職側のセルフチェック
□ 最近、利用者さんへの言葉が強くなっている
□ 同じ質問に強いストレスを感じる
□ 介助拒否があるとすぐ焦ってしまう
□ 休憩中も利用者さんの対応を考えて疲れる
□ 他職員に相談せず一人で抱え込みやすい
□ 「自分だけが我慢すればいい」と思っている
当てはまる項目が多い場合は、業務量や担当、職場の体制について上司に相談することも必要です。認知症ケアは、個人の努力だけで抱え込むものではありません。
認知症の声かけで大切にしたい関わり方のまとめ
NGな声かけを知ることは利用者さんを守ることにつながる
認知症の声かけでNGな対応を知ることは、単に「言ってはいけない言葉」を覚えるためではありません。
利用者さんが不安になりやすい場面を理解し、安心して過ごせる関わり方を増やすために必要な視点です。
「さっき言いましたよ」「ダメです」「早くしてください」「何でできないんですか」といった言葉は、介護職が忙しいときほど出やすくなります。しかし、利用者さんには否定や責めとして伝わることがあります。
認知症の声かけでは、正しさを押しつけるよりも、本人の不安や困りごとを見つけることが大切です。
言い換えよりも関わる姿勢が大切
認知症の声かけでは、言い換えの例を知っておくと現場で役立ちます。
ただし、言葉だけを丁寧にしても、表情が険しい、動作が急、目線を合わせていない、本人の話を聞いていない状態では、安心にはつながりにくいです。
大切なのは、利用者さんを一人の大人として尊重し、何に困っているのかを考えながら関わる姿勢です。
声かけに迷ったときは、次のように考えてみると整理しやすくなります。
・この言葉は本人を責めていないか
・急かす言い方になっていないか
・本人の不安を受け止めているか
・安全のための説明ができているか
・自分一人で無理に進めようとしていないか
この視点を持つだけでも、NGな対応を減らしやすくなります。
迷ったら一人で判断せず相談する
認知症の方への声かけは、利用者さんの状態、生活歴、体調、性格、施設の方針によって合う方法が変わります。
ある方に効果的だった声かけが、別の方にも合うとは限りません。また、同じ利用者さんでも、日によって反応が変わることがあります。
だからこそ、うまくいかないときは一人で抱え込まず、上司、先輩職員、看護師、リハビリ職などに相談することが大切です。
特に、急な不穏、強い拒否、暴言や暴力、食事量の低下、転倒リスクの増加、体調不良が疑われる場合は、声かけだけで対応しようとせず、職場のルールに沿って共有しましょう。
この記事のまとめ
・認知症の声かけでは、否定・説得・急かしすぎがNGになりやすい
・「さっき言いましたよ」「ダメです」「早くして」は不安や拒否につながることがある
・声かけは短く、一つずつ、落ち着いた表情と声のトーンで伝えることが大切
・食事、排泄、入浴、更衣、移乗では、羞恥心や安全への配慮が必要
・声かけに失敗しても、自分を責めすぎず、言い直しや職員交代で立て直せばよい
・認知症ケアは一人で抱え込まず、チームで声かけを共有することが大切
認知症の方への声かけに、いつも完璧な正解があるわけではありません。
大切なのは、NGな言葉を避けながら、利用者さんの不安や困りごとに目を向けることです。うまくいかない日があっても、関わり方を少しずつ見直し、チームで共有していけば、利用者さんにとっても介護職にとっても安心しやすいケアにつながります。


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